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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)120号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実及び本件審決の理由の要点1ないし7は、当事者間に争いがない。また、本件審決の理由の要点8は、熱電対の温接点の起電力Ehが温度tに比例する範囲で成り立つことも(ただし、「結局本願第一発明は引用発明と同一であるものと認められる。」との部分を除く。)、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由(請求の原因四)について判断する。

1 請求の原因四1について

前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点1(本願第一発明の要旨)及び2(引用例の記載内容)によれば、本願第一発明及び引用発明は、共に熱電対と抵抗温度計を組合せた連接温度計であること、熱電対の一方の接点(温接点)を測温点に置き、他の接点(冷接点即ち基準接点)の温度を抵抗温度計で測定するものであることは、明らかである。

原告は、本願第一発明において使用する温度計のうち、抵抗温度計が主であるとし、本願第一発明においては、抵抗温度計の測温抵抗線を温度を測定すべき場所(温度t)に比較的近い場所に置くものであることをその理由としている。しかし、前記本願第一発明の要旨によれば、本願第一発明の要旨とする構成には、抵抗温度計の測温抵抗線をどのような温度の場所に設置するかの点について、何ら規定されていないことが認められる。したがつて、原告の右主張は、本願第一発明の要旨に基づかない主張というべきであるから、採用できない。

2 同四2について

原告の右主張は、要するに、熱電対の冷接点が本来0℃に保たれるべきものであるということを前提とし、本願第一発明の場合は、熱電対の基準接点が置かれる場所(即ち、抵抗温度計の測温抵抗線が置かれる場所)の温度tJは、0℃やこれに近い温度ではなく測定温度tに近い温度であることを理由としているものである。

しかし、本願第一発明は、熱電対の基準接点が置かれる場所(即ち、抵抗温度計の測温抵抗線が置かれる場所)の温度を発明の要旨に含むものでないことは前記1のとおりであるから、原告の右主張は採用できない。

3 同3について

本願第一発明は、基準接点温度の温度範囲をその要旨としていないことは前記2のとおりであるから、原告の右主張は失当である。

なお、引用例の記載中の原告指摘のアないしウの記載は、成立に争いのない甲第三号証(引用例)によれば、次に述べるとおり、引用例に記載の補償回路が0℃に近い領域でのみしか有効に作動しないということを示す記載には当たらない。

アの記載については、引用例の銅抵抗体(本願第一発明の測温抵抗線に該当する。)の温度が冷接点(本願第一発明の基準接点)の温度に等しくなるように両者を配置することを述べていることがその記載から明らかであり、殊に前掲甲第三号証(引用例)(2)頁右上欄一行ないし六行及び成立に争いのない甲第二号証(本願公報)(2)頁4欄七行ないし一〇行によれば、引用例のRtcは本願発明のRoに当たるものであり、引用例の式(3)と本願公報の式(2)とは対応するものであることが認められるから、アの記載は、引用例に記載の補償回路が0℃に近い領域でのみしか有効に作動しないことを示す記載ではない。

イの記載中の式(5)は、冷接点の温度に対する熱起電力Ecが冷接点の温度tに比例していることを示していることがその記載から認められ、したがつて、イの記載は、熱電対の起電力における冷接点温度の影響が直線的であることを条件とすることを示しているにすぎないものである。

ウの記載は、測温接点の温度を0℃としたときの出力電圧を0とするための調整法を示しているにすぎない。

4 同四4について

前記当事者間に争いのない本件審決の理由の要点1ないし7及び前掲甲第二、第三号証によれば、次の事実が認められる。即ち、

(一) 引用例記載の熱電対TPの熱起電力ETPは、温接点(測温接点)の温度tと冷接点(基準接点)の温度tJにそれぞれ対応する起電力EhとEcとの差で表され(甲第三号証(2)頁左上欄一一行ないし一四行)、引用例の「熱電対TPは冷接点CCの許容温度範囲内にてEc=βt…(5)なる関係が成立するものとする」(同(2)頁右上欄一三行ないし一五行)及び「ここでβは熱電対TP固有(「固有」は誤記と認める。)の定数である。」(同(2)頁右上欄一八、一九行)との記載から、引用例の熱電対の熱起電力は温度に比例すること即ちEh=βtを条件としていると認められるから、ETP=Eh-Ec=βt-βtj=β(t-tj)となり、これは即ち、本願第一発明における両接点の温度差に比例するβ(t-tj)で表される熱起電力E(本願第一発明の式(1))に相当するものであつて(甲第二号証(2)頁3欄四二行ないし4欄五行)、本願第一発明と引用発明は共にこの式が成り立つことを条件とするものである。

(二) 本願第一発明の式(2)が、引用例記載の式(3)に当たることは前記3のとおりである。

(三) 引用例のものにおいても、測温抵抗体が被測定温度tにあるときの出力電圧であることを示す本願第一発明の式(5)に対応する式(本件審決の理由の要点8参照)が、起電力Ehが温度tに比例する範囲で成り立つことは、当事者間に争いがなく、引用発明においても、起電力Ehが温度tに比例すること即ちEh=βtであることを条件としていることは前記(一)のとおりである。

(四) 本願第一発明の式(3)については、引用例の式(1)において、演算増幅器に不可避のオフセツト電圧を考慮しないときには、<省略>となり、E/R1はR1、Rtに流れる電流iであり、Rtについて引用例の式(3)を代入すれば、本願第一発明の式(3)に対応するV1=iRtcの(1+αt)が求められるものである(本願第一発明では、既に述べたとおりtはtJに相当する。)。

(五)本願第一発明の式(4)については、引用例の式(6)においてオフセツト電圧を考慮しない式<省略>に対応するものである(ここでE/R1は前叙のとおりiであり、1/R2、1/R3は本願発明における二定数n1、n2に当たる。)。以上のとおりであるので、引用例に本願第一発明の式(1)、(3)、(4)及び(5)が直接記載されていないことをもつて、両者の技術思想が異なるものということはできない。

5 以上のとおり、請求の原因四1ないし4はいずれも採用できない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の特許請求の範囲第一項(以下、「本願第一発明」という。)は左のとおりである。

「熱電対と抵抗温度計とを組合せ、定数n1、n2及び一定電流iを、n1β=n2iRoα〔ここで、βは、測温接点の温度をt℃、基準接点の温度をtJ℃としたとき、上記熱電対の熱起電力EがE=β(t-tJ)として表されることとなる上記熱電対に固有の定数:Ro及びαは、上記測温抵抗線において、上記tJ℃における抵抗RJがRJ=Ro(1+αtJ)として表わされることとなる上記抵抗温度計に固有の定数である。〕を充たすように選定して、熱電対の起電力Eのn1倍と、熱電対の基準接点の温度にある測温抵抗線に上記一定電流iを流している時にその測温抵抗線に加えられている電圧Vrのn2倍との和

V1=n1+n2Vr

が、上記測温抵抗線が被測定温度にある時の出力電圧に等しくなるように回路常数を定めて成る連接温度計。」

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